Illustrator CSでPDF保存したとき、
EPS画像が分割化される問題は以前から知られていた。Illustrator CSがリリースしたすぐ直後から、話題になっていた。ただそのとき、Illustrator CSを使っているユーザーはそれほど多くなく、
PDF保存するユーザーはもっと少なかった。
だから、PDF保存は使えないんだよ
という声をよく聞いたものである。
私自身は、IllustratorにはEPS画像を貼り込むことはなかった。以前から貼り込み画像は、
Photoshop形式(PSD)を利用していたからである。PSDを貼るのは、埋め込まなくても画像のオリジナルイメージをIllustratorで表示できるからである。ただし、ファイルの軽さから言うと、
TIFFでLZW圧縮した画像の方が扱いやすい。
JPEGはIllustratorに貼り込むと、解凍されるので、画像の表示位置を変更したり拡大縮小をすると再デコードするようで、モニタの描画は遅い。ネットワーク上のIllustratorのネイティブファイルを開くと、JPEGリンクはさらに描画速度の遅さに拍車がかかる。
さて、
EPS画像をPDF保存すると水平線が現れる問題は、印刷に関わるものにとっては、致命的である。画像に白い線が入ったまま印刷されてしまうと、
刷り直しになるからである。
モニタで確認できるのかというと、確かに拡大率を大きくすると確認可能だ。しかし、透明の分割・統合でも、画像は分割化される。たとえば画像の上にテキストを乗せて
ドロップシャドウを適用すると、背面の画像は分割される。モニタで拡大すると、薄いが白い線が現れる。この場合の白い線は、必ずしも水平線ではない(垂直線もある)。
透明の分割・統合で画像が分割されるときは、画像のすき間が印刷されることはなかった。モニタで表示されるのは演算誤差であって、高解像度のRIPであれば、網点を正確につないで、切れ目が見えないようになる。
Illustratorで分割されたものは印刷時には現れないが、
Windows系のアプリケーションで問題になることがある。
Distillerで
PDFに変換するとき、ドキュメント内の画像が分断化されて、印刷時に白い線が表示されてしまうことがあるのだ。
ドキュメントからの書き出しに問題があるのか、
WindowsのGDIが悪さをしているのか、
プリンタドライバが原因なのか、
Distillerが犯人なのかは不明である。
Adobe(アドビ)はPDFの普及に力を注いできた。Adobeの開発したファイル形式にユーザーを誘導するのはAdobeにとってメリットがある。もともとPDFは、印刷用に特化したファイルフォーマットだったから、DTP関係のアプリケーションをPDF化するのは当然だろう。
また、この間まで
Adobe SystemsのCEOだった
ブルース・チゼンは、Acrobatを成功させたことで、
ワーノックによってCEOに指名された(とどこかで読んだ覚えがあるが、ソースを確認できなかった。記憶違いだったらごめんなさい)。チゼンがAdobeのビジネスフレームを
印刷メディアから、
電子メディアに広げたのである。
であるならば、
グラフィックソフトからPDF書き出しを行ったときに、このような不具合が発生することを看過していいはずはないではないか。
だから今からでも、AdobeはEPSを正しく書き出すための
アップデータをリリースすべきではないか。今からでも遅くはない。
CS3にバージョンアップすることだけを唯一の解決方法にすべきではないだろう。
もともとAdobeは、ソフトウエア業界では、信頼性のもっとも高い企業だった。おそらく今でもそうだろう。そう考えると、このバグを
サポートデータベースにあたかも「仕様」のように掲載してお茶の濁すのは、アンビリーバブルな対応としか思えない。あなたも、そう思うだろう。
EPS画像のPDF書き出しでの水平線はけっして「仕様」ではない。Illustrator 10までは、そんなことはなかったのだから、明らかに「
バグ」であり、Illustrator CSとCS2は、印刷ためにIllustratorを使うユーザーにとっては不良品ではないか。
まあAdobeがアップデータで修正しないというのであれば、それはそれで仕方がない。Adobeに対する信頼が失われるだけだ。多くの企業は業績が好調なときほど、
ユーザーの声を無視する傾向がある。日本のユーザーの声は、サンノゼには届かないだろう。そして、残念ながら、ユーザーにはAdobe以外の選択肢はない。
ただし、Illustratorのバグは、ユーザーのPDF出力への意志を確実に退歩させる。少なくとも印刷会社や出力センターにとっては、PDF入稿された場合、Illustratorで作成されたかどうかを確認し、さらにCSとCS2であることを確認して、その場合はPDFを開いて、
画像を目視でチェックしなければならない。
Illustratorでは、いまだにEPS画像が貼り込まれていることが多く、CSとCS2で作成されたPDFは、そのほとんどが
再入稿となるに違いない。そこまでリスクを負うのであれば、IllustratorでのPDF入稿はご遠慮願う方がトラブルに巻き込まれなくて済むと、印刷会社の多くは考える。
私の知る限り、PDF内の画像のオリジナルフォーマットがEPSであるかどうかを、Acrobatの
プリフライトで確認する術はない。どのような画像フォーマットであっても、埋め込まれれば同じである。
アップデートで直さないのは、
アップデータでは直らないような致命的なものだからかも知れない(とは思わないけどね)。
しかし、このまま放置しておけば、Illustratorの出力がEPSからPDFにシフトしていくのに、五年くらいは遅れをとるのではないかと思える。EPS画像の水平線は、日本での
PDFワークフローにとって、間違いなく大きな足枷になるに違いないのだ。
印刷会社にとっては、やっかいな「バグ」だが、現実として受け入れるしかない。Illustrator CSやCS2でPDF保存する場合は、EPSは使わないように顧客を指導していくしかない。CS2ではPSDでも分割されるので、できればTIFFが最適。
せめてCSのバグはCS2でなおせよ
といっても仕方がない。かといって、CSとCS2の入稿を断ることもできないだろう。「CS3にバージョンアップしてください」とも言えない。CS以降のIllustrator EPSで出力するためには、
RIPのバージョンアップも必要になる。となると、印刷会社が、Adobeの代わりに告知していくしかない。
残念ながら、こういう問題は昔からよくあったではないか。トリムマークではなくトンボの使用、アウトライン化されていないテキストやJPEGエンコーディング、ICCプロファイルの埋め込みなどによって、正しく出力できないデータで入稿されることは珍しくはない。サービス業としては、顧客のために、Illustrator CSとCS2ではEPSを貼り込んでPDF保存しないように、アナウンスするしかない。
Adobeに成り代わってである。
あなたが、Adobeの有償のサポートプログラムに加入しているのであれば、声を大きくして、この問題についてクレームを言うべきである。
印刷会社は困っていると。そして、古いバージョンでもアップデートで直すべきだと言おう。それで、修正されるとは限らないが、今後の製品には反映されるに違いない。大きな声で多くの声が集まれば、サンノゼも動くかも知れないしね。
やっかいな問題ではあるが、しつこく書いてより多くの人に知って貰うしか、私には方法がない。
Illustrator CSとCS2ではEPS画像は御法度ですぞ
と。