『感染症は世界史を動かす』で知るペスト、梅毒、結核、インフルエンザの歴史



071215_book.jpg 感染症の歴史から世界史を解読するという野心的な本。けっこう読み応えのある本だった。世界史といっても、主に西洋史が中心ですけどね。
 ヨーロッパで、歴史に影響を与えた感染症がいくつかある。中世までのハンセン病、14世紀以降のヨーロッパ人の死生観を変えたペスト(黒死病)、そして15世紀末にコロンブスがもたらしたスピロヘータ、産業革命下の劣悪な労働条件で猛威をふるった結核、そして20世紀に定期的に大流行するインフルエンザなどをとりあげ、それらと世界史の関係を切り取っている。
 ペストが1338年のカザフスタンに発生し、ヨーロッパに渡るまでが約10年、コロンブスが1493年にスペインに戻ってから、日本の京都に梅毒が現れるまでがたったの19年。中世でも感染症が広がる早さには驚くばかりですな。
 14世紀頃に猛威をふるったペストの致死率は高く、都市住民の半数以上がなくなることもあった。あまりのすざましさに、ユダヤ人が怨嗟の対象になって虐殺されたり迫害されて自死した。フランスドイツではユダヤ人の集団虐殺がつづき、多くのユダヤ人が、ユダヤ人に寛容だった東ドイツポーランドに移住したらしい。ポーランドに移住した子孫の一部が、ナチスの虐殺を逃れシンドラーに救われた(あんまり関係ないか)。
 さらにユダヤ人がいなくなった後も、スケープゴート探しは続き、民間での魔女狩りの心理的要因になったという。カトリックの異端審問がエスカレートして魔女狩りの嵐が吹き荒れたというより、ペストの恐怖が魔女狩りを正当化したらしい。
 ペストは、男も女も老人も子供も、聖職者も貴族も貧乏人も関係なく命を奪った。そのため、人々のカトリックに対する信仰が薄れ、のちにプロテスタントを生み出す素地になっていく。ペストが到来するまで、カトリック信仰は疑うことすら許されなかった。
 ただし、この本には書かれていないが、ペストの致死率は体内の鉄分に関係しており、鉄分の多い人ほどペスト菌が繁殖しやすく死ぬ率も高かった。したがって、女より男の方が、子供や老人より壮健な大人が、栄養の乏しい貧乏人より食に不自由しない金持ちの方が体内の鉄分が多く、ペストの死亡率は高いそうだ。
 なお、ペストはタタールによって世界史至上初(おそらく)の生化学兵器として使われた。
 また、梅毒が世界史を変えたことは、誰でもが知っている。中世のヨーロッパ君主の多くは、梅毒に冒されている。フランスのシャルル八世、フランソワ二世、イギリスのヘンリー八世やその娘のメアリー女王などなど。ヨーロッパに到達した頃の梅毒は致死率が極めて高く、数年で死に至ったらしい。そののち毒性の強い梅毒は影を潜めたという。
 その後、梅毒はヨーロッパ宮廷では当たり前の病気となり「宮廷病」と呼ばれた。当時の貴族がカツラをかぶっているのは、梅毒で抜け落ちた髪の毛を隠すためなんだそうだ。ヨーロッパの時代物の映画では、金持ちの男はいつもカツラをかぶっているが、「なるほど」とその理由についてやっと合点した。
 結核は世界史に大きな影響を与えたかというと、直接的な影響は少ないかもしれない。しかし、この本では、エンゲルスが過酷な労働を強いられ結核で早死にしていくロンドンに憤りを感じたことが紹介されている。マルクスはロンドンの貧困から共産主義を創作したが、劣悪な環境で長時間働く労働者にとって逃げられない結核もまた、「資本論」に影響を与えたに違いない。
 インフルエンザの最初の大流行は1918年。このスペインかぜのおかげで第一次世界大戦は終結したらしい。もともと最初にスペインかぜが発生したのは、カンザスにあるアメリカ陸軍のキャンプだった。アメリカの参戦ともに、インフルエンザもヨーロッパに渡った。スペインかぜはドイツの西部戦線に感染を広げ、優勢であったドイツ軍に大きな打撃をあたえた。それが講和につながったそうだ。スペインかぜがなければ、フランスは間違いなく、ドイツに占領されていた。
 ちなみに、Illustratorのオープニングで使われていたのは、ボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」のヴィーナス。モデルは16才でなくなったそうだが、あの絵を見ると、シモネッタが結核にかかっていたことがわかるそうである。





posted by 上高地 仁 at 13:48 | Comment(0) | TrackBack(1) | みだれうち読書ノート
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