2012年10月26日

手のひらタブレットiPad miniで世界征服を狙うアップルのiOSワールド

 2012年度のアップルの売上は、360億ドルに達し、利益は82億ドルとなった。勝負時のクリスマスシーズンを控えて、堅調な売上と利益を叩き出した。昨年同期は282億ドルで66億ドルの利益だったのでアップルの成長はいまだに鈍化の兆しを見せていないようだ。

  この四半期のiPadの販売数は約1400万台でアナリストの予想より少なかったらしい。iPad miniの噂で買い控えされたことは間違いなさそうだ。昨年同期のiPadの販売数は約1100万台なので、買い控えされてもこの数字というのは、ある意味では驚くべき数字かもしれない。

 最近はタプレットのiPadシェアが落ちてきているという。昨2011年は80%を超えるシェアを誇っていたのに、今年は50%強だという。昨年15%のシェアだったAndroidが48%までに急迫しており、Androidタブレットの普及が著しい。もっともこのデータはアメリカのものなので、Androidタブの多くはアマゾンの「Kindle Fire」らしい。

 この調査は10月に公表されており、今年の数値が仮に2012年前半のものだとするとiPadの販売数は約2700万台となる。アメリカでの販売数を全世界での4割だと仮定すると、シェア52%のiPadは1100万台程度ということになる。そうすると、Kindle Fireの販売数は400〜500万台ということになりそうだ。

 Kindle Fireは昨年末の12月に480万台程度売ったといわれており、それから勘案すると半年でほぼ同じ数値は少なすぎる。ところが、Kindle Fireは2012年の第1四半期(1〜3月)は前四半期の24%の販売数しか確保できず、Kindleの販売数は低迷した。Kindle Fireは初動のみ売れ、その後は売れない端末になっている。

 しかしこの調査は販売数から割り出したのか、アンケートでシェアを割り出しのかがよくわからない。Pew Internet & American Life Projectは調査会社なので、おそらくアンケートで調べたものだろう。図版の下にある「2011 N=1,196;2012 N=1069」という数字がサンプル数であれば、あまりに精度が低いというしかない。アメリカでも数千万はいると思われるタブレットユーザーを、たった一千人程度で統計している。これでは無謀のそしりは免れ得ない。またアンケートであれば、iPadとAndroidの両方をもっているユーザーもいるはずでその辺りもまったくデータに反映されていない。


 さてそれでも、タブレットでAndroidシェアが高くなっていることは確かだろう。しかしここで注意したいのは、普及数の捉え方である。画面サイズを関わりなく、すべてタブレットを合算して統計を導きだすのは意味はないだろう。タブレットは画面サイズにあわせて別のカテゴリーとしてシェアを割り出すべきではないか。つまり

10インチ前後 フルサイズタブレット
 7インチ前後 手のひらタブレット
 5インチ前後 木の葉タブレット


というような感じになる。どうでもいいが、10インチより大きいサイズが登場したらもオヒョウサイズと呼びたい。

 そうすると、10インチ前後のフルサイズタブレットではおそらくiPadの一人勝ちではないか。このサイズでは8割以上のシェアを誇っていてもおかしくはない。7インチ前後ではiPad miniは後発となり、ことしのクリスマスシーズンに手のひらサイズタブのシェアは塗り替えられる

 iPad miniと競合になりそうなのは。アマゾンの「Kindle Fire HD」だろう。画面サイズは7インチながら、デバイスサイズはほぼ同じ。価格はiPad miniの半値に近い。16GBモデルの仕様を比較してみると

Kindle Fire HD    193mm×137mm×10.3mm    1280×800    395g    15,800円(199ドル)
iPad mini           200mm×134.7mm×7.2mm    1024×768    308g    28,800円(329ドル)


となり、iPad miniはKindle Fire HDに比べて30%薄く、22%程度軽い。薄くて軽くする方がコストはかかる。アマゾンはデバイスにほとんど販売マージンを計上していないので販売価格から単純に製造原価を割り出すことはできない。iPad miniの製造原価はどのくらいだろうか。

 iPad 3rdの16GBモデルは原価率が60%程度(499/306.05ドル)であり、iPad miniの16GBモデルの製造原価率はこれと同等か、さらに下がっていると考えられる。アップルはiPad miniを売るために会社の利益率を下げてもいいと考えているからである。もし製造原価が60%程度だとすると、329ドルに対しての60%は200ドル程度となる。iPhone5の製造原価とあまり変わらない。製造原価はもう少しかかっていそうだ。

 アップルが社内で決めた原価を割り込んでもiPad miniの価格を戦略的に設定したのは、7インチクラスのマーケットを敢然と奪取するためだろう。原価を下げるのは、iPad miniが売れてからの話なので、同じ価格でiPad miniのRetina版を販売するにはすこし時間がかかりそうだ。


 グーグルは広告スペースを売り、アマゾンはコンテンツを売る。翻ってアップルは何を売っているのかというと、アップルはiOSという

価値観

を販売しているといえそうだ。あるいはiOSという世界観である。別の言い方をするとアップルはその世界観を決める家元を目指しているのだ。そうでなければ、iOSの審査ガイドラインに

10.6: Appleと顧客は、シンプルで精錬され、クリエイティブなインターフェースに価値を置く。これらは手間ではあるが意味がある。Appleは基準を高く持っており、アプリのインターフェースが複雑であったり、クオリティが低い場合にはリジェクトされる。

などいう威丈高な項目を用意することはない。隔離されて味に集中することを強要される一蘭のラーメンのように、アプリ開発者はアプリクオリティを向上することを要求される。クオリティのハードルは時間とともに上がっていくと考える方が自然だろう。

 アップルの基準はアップルにしかわからない。何を持って「クオリティが低い」と判断するかは、アプリを申請してみないとわからない。しかしそこにこそiOSの価値がある。アプリのクオリティを絶えず高みに置くことで、価値を創造しているのである。アップルの衰退が始まるとしたら、価値観を高みに置けなくなったときに始まるといってもよい。

 iPhoneは、携帯電話にiOSをバンドルして抱き合わせたものだ。しかしiPadは違う。iOSだけで勝負しなければならない。iOSで世界を征服するためのデバイスである。iPadが売れているといっても、いまだPCの販売数を逆転させるまではいっていない。iPad miniが手のひらタブレットを制覇すれば、PCの販売数とタブレットの販売数は逆転し、そのとき世界はiOSに屈したといえるだろう。2012年のクリスマスシーズンで世界がiOSを望んでいるのかどうかが、少しは見えてくるに違いない。



◆アップル、Q4決算を発表--「iPhone」販売台数58%増ながらも「iPad」は予測下回る
http://japan.cnet.com/news/service/35023595/?ref=rss

◆iPadシェアは8割から5割に低下:米国ユーザー
http://wired.jp/2012/10/03/study-shows-25-of-americans-own-a-tablet/

◆2012年Q1の世界タブレット出荷台数、iPadのシェア拡大、Kindle Fireは大幅減
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20120507/394642/?ST=keitai

◆アップルQ1利益、「iPad mini」など新製品一挙投入で減少の可能性--CEOが明らかに
http://japan.cnet.com/news/business/35023623/?ref=rss

 
ラベル:iPad mini
posted by 上高地 仁 at 21:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | Apple/Macintosh/iPhone | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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