2011年05月10日

App Storeブックアプリのリジェクトその傾向と対策

 App Storeへの申請情報などは、NDA(守秘義務契約)で公開してはいけないことになっているが、実際にはすでにNDAの対象からは外れているらしい。2年前に書かれたブログによると、SDK3.0のときにiOS Developer Program内の情報はNDA対象外になっているという。ということは、申請方法や内容を公開しても全く問題ない。NDAの対象は非公開情報だけなので、通常のiOS Developer Program内の情報は関係ないそうだ。
 
  先日、App Storeで立て続けに申請したアプリがリジェクト(却下)された。それまでに一度却下されたことがあったが、そのあとは特に問題なく却下されなかった。そのためリジェクト問題については忘れかかっていたのである。リジェクトについては誰かの話を聞いても実感はわかないし、実際に遭遇したときに対処すればいいと思っていたので、

とうとうきたか

という思いもあった。

 ただし本音を言うと、iPhoneブックアプリ作成ツールを販売している身としては、リジェクトについては頬被りしておきたい。ツールを使用してブックアプリを作成すると、確実にリジェクト対象になるとなれば、ブックアプリ作成ツールは売れなくなってしまう

 しかしそうはいっても、理由がわかれば対処方法もある。ユーザーに真実を隠しておくことはできない。リジェクトの噂だけで腰が引けてしまうユーザーもいるだろう。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」のように、正体が分かってしまえば、恐るるに足りないことだと考えることもあるだろう。だから、ブックアプリがリジェクトされる具体的な理由は公開した方がいいのではないかと思うのである。



 最初にリジェクトされたのは、PDF版をPaypalで販売している『iPadでPDFの縦組み電子書籍を見開き表示する方法』というコンテンツであった。これをSakuttoBookでiPhoneアプリにしてPaypalとの販売数を比較をしたかったが、却下されてしまった。理由は

8.1: Apps must comply with all terms and conditions explained in the Guidelines for using Apple Trademark Names and the Apple Trademark Products List

とあり、Apple製品についての商標の記載がないということらしいので、言及しているApple製品について商標登録されていることを記載するページを挿入した。それで再申請したが、やはり駄目だった。2度目も同じ理由だったが、具体的な問題点がわからなかったので、再々申請はあきらめた。

 内容的にiPadのというより、Good ReaderとBookmanで縦組見開きする方法を書いてあるものであり、iBooksと比較してあるので、もし「8.1」でリジェクとされなくても、他の理由で却下されるかもしれない。もし申請を通すのであれば大幅に書き直す必要が発生する。そうなると決済方法の比較はできなくなってしまう。



 そのあと立て続けにリジェクトされたのは、同じくSakuttoBookで作成していた2つのアプリである。ただしリジェクト理由は前回と異なった。2つのアプリのリジェクト理由は同じで

2.20: Developers “spamming” the App Store with many versions of similar apps will be removed from the iOS Developer Program

とある。同じようなバージョンで多くのアプリをApp Storeでリリースすると、「スパム」にあたり、その開発者は iOS Developer Programからリムーブされるかもしれないのである。どうやら、世間でいわれているブックアプリの恐怖のリジェクト問題は、この「Developers “spamming”」らしい。申請したアプリがスパムだといわれれば、なす術はない。

 このリジェクト理由で重要なのは「many versions of similar apps」という意味だろう。どうやらこれは中身を差し替えただけでコードが同様のアプリのことを指すらしい。ブックアプリの場合はどのようなアプリであっても、同一のXcodeを使い中身を差し換えたものになるので、そのようなアプリは「spamming」にあたり、却下されるわけである。

 「spamming」と見なされるのは、SakuttoBookだけではない。iPhoneのブックアプリ作成ツールは、どのようなものであれすべてが対象になると考えてよい。作成ツールで作成した電子書籍は、コードは同じで中身だけを差し換えただけのものだからである。既成の作成ツールを使用したiPhoneブックアプリがたくさん登場しないのは、「spamming」としてリジェクトされるからであろう。

 つまりApp Storeのリジェクト問題は「many versions of similar apps」が理由である。ブックアプリといっても中身を差し換えただけでは「similar apps」となり、アプリをバージョンアップしても「similar apps」となる。アプリが別物であればリジェクト対象にはならないが、同じアプリをベースにするとリジェクトされるのである。

 ここで興味深いのは、どこまでを「similar apps」とするのかということだろう。審査する側はXcodeの構造をみていると考えられるが、どこまで変更すれば「similar apps」ではないと判断するのかということである。審査担当者が変われば審査基準も変わるだろう。審査が甘ければ、プロジェクトファイル名さえ異なると、「similar apps」ではないと判断することもあるのだろうか。

 また「similar apps」であっても、登録した開発者が異なれば、必ずしもリジェクト対象にはならない。もし開発者が異なっても「similar apps」がリジェクト対象になるのであれば、SakuttoBookだけでなく、●Rea●erもd●●BookもM●●ookもそれ以外の既存の作成ツールの一切は申請が通らないことになってしまう。実際にはそんなことはない。開発者が異なれば、何本かの「similar apps」は審査を通るようである。

 多くの電子書籍販売者がApp Storeをさけるのは、同様のツールでブックアプリを作成すると、審査がどこかで通らなくってしまうからである。だからといって、リジェクトされたときに新しいiOS Developer Programを申し込むのは馬鹿げている。新しいiOS Developer Programで申請すればある程度の審査は通るかもしれないが、登録料と振込手数料が重くコストにのしかかることになる。

 多くの出版社がAndroidに逃げたがるのは、Androidであれば、「similar apps」という理由でリジェクトされることはないためだろう。また、Android Marketの方がマージン率が小さいこともある。ただし審査が緩くてもマージンが低くても、客が少なければビジネスは成り立たない。客の多いApp Storeでビジネスできないサプライヤーが、Androidだからといってビジネスを確立できると考えるのは見当違いである。

 App Storeで電子書籍を売るには、アプリにするのが確実である。アプリだとランキングがあがればそれだけである程度は売れる。ランキングはセールスツールの1つであり、ランキングの上位にあるだけでクロスセル、アップセルの対象になるからである。村上龍iPhoneアプリが同じツールを使用せず(未確認なので推測です)に毎回フィーチャーする内容が異なっているのは、アプリとして確実に審査を通すためではないかと思われる。



 「similar apps」としてリジェクトされたアプリに対してAppleの回答はこうである。

Apps based on a common feature set should be combined into a single container app that uses the In App Purchase API to deliver different content. For example, it would be appropriate to consolidate the following app, using In App Purchase:

 In App Purchase、つまりアプリ内課金が適切だという。要するに同じツールを使用してアプリを作成する場合は、アプリ内課金を使いなさいということなのである。アプリ内課金であれば、中身を差し換えただけのアプリであっても却下されることはない。絶対ないとは保証できないが、同じツールを使用した場合は、アプリ内課金を使うしかないのである。ゲーム内のアプリ内課金で買う仮想グッズと同じ扱いというわけだろう。

 モリサワのMCBookが3.0になって、アプリ内課金に対応したというのは、アプリ内課金に対応しなければ電子書籍作成ツールとして使い物にならないからではないか。それはSakuttoBookも同じで、アプリ内課金への対応は急務となってしまった。

 もちろんそうはいっても、実際にはアプリ内課金ではそれほど売れないのが現実である。天下の電通ですら、マガストアでアプリ内課金を使用しても、月額で1,200万円程度の売り上げしかないという。昨年、ダイヤモンド社の『もしドラ』がApp Storeで売った平均の月額販売額もその程度なので、マガストア全体でも、トップセールスした単一ブックアプリと同等の売り上げなのである。

 さて肝心なことは、アプリ内課金を使って、どのようにしてApp Storeでブックアプリを売るのかということである。つまりその方法が見えれば、アプリ内課金でも電子書籍ビジネスは成り立つのである。もしアプリ内課金することでApp Storeに電子書籍を確実に並べることができれば、アプリ内課金でも売れるノウハウを考えればいいだけである。



 というわけで、ブックアプリ却下をテーマにセミナーを開催します。実際に却下された実例をチェックしながら却下されない方法を探ります。ブックアプリを却下されないために、是非セミナーにご参加ください。



◆[iPhone]iPhone SDK の NDA がさらに緩和してる件
http://kozy.heteml.jp/l4l/2009/06/iphoneiphone-sdk-nda.html


◆App Storeブックアプリ却下対策セミナー[インクナブラ・5/27日]
http://www.incunabula.co.jp/110527/



 
posted by 上高地 仁 at 18:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース&トピック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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