昨年度のアマゾンの決算報告が発表された。第四4半期に過去最高の129億ドルを売り上げた。決算報告はKindle eBooksの成長ぶりにも触れているが、アマゾンらしい発表の仕方になっている。CNN.co.jpの記事を読むと報告では2010年度に
Kindle向けの売上がペーパーバックの売上を超えた
という。アマゾンが販売しているペーパーバックの売上は公表されていないし、Kindle eBooksの売上金額も公表されていない。Kindle eBooksの売上が越えたにしても、実際の販売部数も不明であり、具体的な売上金額は明示されていない。公表できない理由があるのだろうか。もちろん公表しない方が、憶測が飛び交って話題性は高くなる。
また、合わせて今年の統計として
ペーパーバック100冊に対しキンドル用書籍115冊が売れている計算
ともアナウンスしている。Kindle売上がペーパーバック売上を越えた統計は昨年のものであるにもかかわらず、冊数が越えた期間は今年のごくわずかの期間での統計ではないか。アマゾンの発表をそのまま読むと、昨年、Kindle eBooksがペーパーバックの売上を越えて、冊数的に15%増しという錯覚を誘っているようだ。
アマゾンのKindle eBooksのページを開いてみると、トップセラーの大半はマス・マーケット・ペーパーバック化されている書籍であることがよくわかる。販売価格帯は
4ドルから8ドル
程度のものが多いが、ペーパーバックの販売価格と比較してそれほど安いわけではない。たとえば日本でも翻訳されている「ドラゴン・タトゥーの女」はペーパーバック化された書籍は「7.99ドル」で、Kindle eBooksは「7.00ドル」となっている。電子書籍だから安いということは全くない。
さらにスティーグ・ラーソン著のミレニアムシリーズの第二部「火と戯れる女」は「7.00ドル」だが、第三部の「眠れる女と狂卓の騎士」は「11.99ドル」となっている。どうやらアメリカでマス・マーケット・ペーパーバック版が発売されていないためらしい。電子書籍の販売価格の根拠のなさがよくわかる。つまり売れる値段で売るのが正解なのだ。
当初話題になった新刊ハードカバーKindle化の「9.99ドル」という価格はトップセラーにはほとんどない。日本の文庫や新書に当たるマス・マーケット・ペーパーバックの以外の書籍も販売価格は概ね10ドルを超えており、紙の書籍価格に比較すると値引率は極めて小さい。
つまり、Kindle eBooksでは現在の新刊書籍ではなく、ペーパーバック化されるような既存書籍がトップセラーなのである。そして値引率はそれほど大きくはない。価格だけを考えれば、ペーパーバックをユースドで買う方が安いのである。にも関わらず、Kindle eBooksが売れている。ユーザーが紙の本ではなく、電子書籍を選択して買っていることは確実といえそうだ。
電子書籍の普及の初期には「廉価」であることで消費者に電子書籍を惹起したが、普及が本格的になり電子書籍マーケットが成長しはじめたので、「廉価」で売る必要はなくなったのだ。おそらくこれから高いKindle eBooksが増えていくのではないだろうか。
昨年までに販売されたKindle本体は、一千万台を越えていると考えられるが、Kindle eBooksはKindle本体で読まなくても、iPhoneやiPadでも読めるし、さらにAndroidでも読める。デバイスに制限されず、Kindleビューワーとネットワークさえ繋がればKindle eBooksのダウンロード可能だ。電子書籍配信プラットフォームとしては、Kindleは最強になったのだ。
電子書籍を選択したユーザーのほとんどは紙の本に戻らない。プラットフォームでデファクトになれば、ファイルフォーマットにも縛られず、価格を下げる必要もない。日本でもいずれそうなる。プラットフォームでデファクトになれれば、あとはドンドンと配信してアマゾンのようにプッシュすればよい。はてさて、日本で配信プラットフォームを握るのはどこだろうか。
◆電子書籍売り上げがペーパーバックを上回る 米アマゾン[CNN.co.jp]
2011.01.30
http://www.cnn.co.jp/business/30001650.html
◆Kindle eBooks Bestselling[Amazon]
http://www.amazon.com/Kindle-eBooks/b/ref=sa_menu_kbo0?ie=UTF8&node=1286228011
◆ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上 [アマゾン]
http://amzn.to/gE2i0p
◆ミレニアム (小説)[Wikipedia]
http://bit.ly/fk7SaR
ラベル:アマゾン
【関連する記事】
- iOS 8、Xcode 5.1.1でSakuttoBookを申請する
- 『ポー短編集 モルグ街の殺人事件 注釈対応版』を申請する
- 「Illustrator CS6で入稿用データを作成する方法」Kindle版を作..
- 小栗虫太郎『人外魔境』Kindle化せり
- 「本日のKindle無料本、無料キャンペーン本」を起動しました
- Kindleブック、目指すは本棚に100冊のタイトル
- Kindleブックはスパム化が決め手だ〜13ヶ月でKindle本7冊、月間ロイヤ..
- iPhoneのKindleアプリではなぜazkファイルが必要なのか
- KindleのKDPでパブリックドメインをリリースしてみた
- 『InDesignでKindleのepubをラクラク作成する方法』iPhone用..
- アマゾンのKDPセレクトで通信費をタダにする方法
- InDesignのソフトリターンはepubの改行に変換されるのだ
- InDesignからepubのカバーを書き出すときの振る舞いとは
- InDesignからKindleブック作成方法をKindle版で出版した
- InDesign CS6からKindleのmobiで便利な段落設定とは
- 「太宰治大全」サーバ本棚に作品集を追加しました。
- InDesignからmobi「進撃の巨人、ミスリードの謎」Kindleに申請せり..
- 「夏目漱石大全」アイコンを変更してアップデート、3作品追加
- SakuttoBookのXcode 5でアプリ内課金を復活−SakuttoBoo..
- InDesign CS6からKindle用epubを作成してみた