Googleブックスは電子書籍キラーにはならない【電子書籍の時代は本当に来るのか】



 手元にある電子書関関係の新書を数えてみると、本書を除いて7冊もあった。新書だけである。『電子書籍の時代は本当に来るのか/ちくま新書』は電子書籍本としては後発の書籍であり、ある意味ではいままで話題になったKindleやiPadを大きく取り上げず、ページの多くをGoogleの電子書籍サービスに焦点をあてているのが特徴だ。

  『電子書籍の時代は本当に来るのか』は3つの章から構成されている。最初の章は電子書籍についての現在までの経緯を主に取り上げている。最後の章はネットのニュース記事のマネタイズに焦点を当てて解説している。真ん中の章は「グーグルは電子書籍を変えるか?」というタイトルでグーグルの電子書籍への取り組みについて詳しく解説している。第二章はGoogleのみを取り上げていて、Googleの電子書籍への取り組みを知る上では恰好の1冊といえそうだ。

電子書籍の時代は本当に来るのか (ちくま新書) それではGoogleのサービスは電子書籍を変えるのであろうか。Googleの電子書籍への取り組みは2つある。1つはGoogleブックスで、Googleが保持している書籍データの全文検索を行う。著作権の切れたパプリック・ドメインの絶版書籍は全文が公開される。絶版されていない書籍もしくは著作権保護期間内の書籍は、許可があるものは書籍の一部がプレビューされる。

 もう1つはGoogleエディションで、これはGoogleが電子書籍を直接販売する仕組みだ。Googleブックスでは最大20%までプレビューされるが、Googleエディションでは100%表示して有償とするものだ。基本的にはクラウドにデータを置き、ブラウザで閲覧する。電子書籍データは画像になり、テキストはOCRの透明テキストが用意される。

 出版社は見本を1冊Googleに提供するだけでいい。Googleはその書籍をスキャンして電子化するので、コストをかけずにGoogleエディションからクラウドで電子書籍を販売できる。GoogleはIDPFに参加しているので、EPUBに対応して電子書籍のダウンロードサービスも行なう予定になっている。ただしその場合は、EPUBの作成コストを誰が負担するのかはわからない。

 Googleの脅威は、世界中の書籍を集めて一括して検索閲覧できる点にある。現時点でも700万冊が登録されているという。パブリック・ドメインもそうでない書籍もGoogleブックスで検索すると、テキスト内容を調べることができるのだ。つまり、GoogleブックスとGoogleエディションがあれば、書籍を検索し、必要があればそのまま電子書籍を手に入れることができるのである。Google以外の電子書籍は不要になるかもしれないということが脅威なのである。

 ただし、ネックはGoogleの電子書籍がスキャンした画像だということだ。そのため携帯デバイスでは使いにくい。携帯デバイスはサイズがまちまちであり、スキャンした画像では閲覧しにくい。Googleエディションで買った電子書籍は、iPhoneでは快適に閲覧できそうにない。Kindleでも読みやすいとは言えないだろう。携帯端末で閲覧に難がある電子書籍が果たした普及するだろうか。

 また、動画や音声、外部リンクもできない。マルチメディア的なコンテンツではまったく役に立たない。紙の書籍にはないアプローチを組み込んだ電子書籍は、いまのところはGoogleブックスの埒の外にある。

 GoogleがGoogleエディションで考えていることは、本当に電子書籍の販売だろうか。本当は電子書籍を販売を主目的としていないのではないか。Googleエディションはスキャンした書籍を販売するものだが、それは表向きの理由であって、本当の理由は別にありそうである。実はGoogleエディションで書籍を販売するという名目で、検索するための書籍のコンテンツを集めているだけではないのか。

 本書によるとGoogleの使命は

世界中の情報を整理し、
世界中の人びとがアクセスできて使えるようにすること


だという(p114)。ただしこの文章には後がありそうである。Googleの使命は情報の整理かも知れないが、情報を整理する目的はその整理されたページに

Googleの広告を貼ること

だと思われるからである。

 Googleは多くの企業を買収して巨大化してきたが、いまだに売上の96%以上は検索広告から得ている。売上は順調に右肩上がりであり、現在四半期での売上は約70億ドル程度になっている。総売上に対する検索広告の売上比率は、この1年ほとんど変わっておらず、Googleが世間の耳目を集めるようなサービスを始めても、Googleの始めた新しいビジネスがGoogleの売上にほとんど寄与していないらしいことがわかる。

 現在のGoogleブックスでは、広告はテキスト検索したときのページにしか表示されない。リストされた書籍の個別ページには広告は表示されていない。しかし、将来はわからない。YouTubeもGoogleが買収した当初は広告は挿入されなかった。しかしいまはどうだ。YouTube動画にもちゃんと広告が表示されている。

 Googleが検索広告という分野で売上をさらに上げていく方法は単純だ。Googleの広告ビュー数を増やすことだ。ネットに接続してブラウザに表示される回数を、表示時間を増やしていくしかない。そうなると、無償で情報を提供し、そこに広告を貼り込んでいくことになる。テキスト検索の回数がこれからも右肩上がりで大きくなっていくという保証はない。

 Googleブックスが電子書籍キラーにならない理由は

広告ビュー数を増やすために、Googleブックスは存在する

からである。これは言い過ぎだろうか。Googleが電子書籍の販売のためにGoogleブックスとGoogleエディションを始めたのだとしたら、電子書籍を売ることより、書籍検索でのページビューを増やすことを第一義にするだろう。

 新しい体験を求める電子書籍ユーザーにとっては、Googleは電子書籍の選択肢にはなり得ない。また、Googleブックスで書籍を検索しても、画像データでしかないGoogleの電子書籍を買うとは限らない。Googleはやはり検索エンジンサービスなのである。

 もしそうだとしても、ユーザーにとっては無償で超弩級の図書館にWebからアクセスできることは諸手をあげて歓迎したい。コンテンツビジネスとして電子書籍野展開とは別に、フェアユースで集約された電子書籍もまた、必要であることは確かなのである。


◆電子書籍の時代は本当に来るのか (ちくま新書)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480065768/incunabucojp-22

◆Googleブックス
http://books.google.co.jp/

◆Googleブックス[Wikipedia]
http://ja.wikipedia.org/wiki/Google_%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9

◆Google、この夏に「Googleエディション」開始〜電子書籍販売に参入[INTERNET Watch]
2010.7.8
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100708_379334.html

 



posted by 上高地 仁 at 09:50 | Comment(0) | TrackBack(2) | みだれうち読書ノート
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