2010年09月16日

日本の電子書籍はアメリカに追随しない #denshi 【ルポ電子書籍大国アメリカ】

 電子書籍マーケットはアメリカで立ち上がった。アメリカで流行ったモノはやがて日本でも流行る。それが世の習い。日本での電子書籍マーケットはまだ起動したばかりだが、アメリカの電子書籍が実際どのようになっているのかを知るためには、本書『ルポ電子書籍大国アメリカ/アスキー新書』を手に取るのが一番早い。一読すれば、アメリカ人の電子書籍感が手に取るように知ることができる。

  著者はニューヨーク在住の出版エージェント。最近の書籍では『iPad電子書籍アプリ開発ガイドブック』の共著者の一人でもある。ながくアメリカの出版を目の当たりにしてきたらしい。その視点からいうと、電子書籍は一気に盛り上がったブームではなく、徐々に出版界に浸透してきたものだという。しかしアメリカの出版業界に身を置いているとそう見えるのも知れないが、実際には電子書籍ブームは昨年から一気に加速している。

100916-01.jpg 日本で電子書籍が大きな話題になっているのは、アマゾンが電子書籍で大儲けをしているからだろう。昨年(2009年)のクリスマスシーズンを含む第四四半期でKindleは150万台売れたと言われ、その後もアマゾンでのKindle本のダウンロード数が大きく伸びているからである。日本でも過去に何度も複数のプレイヤーがトライしたが、確固としたマーケットを生み出すという結果を導けなかった。その電子書籍が、Kindleによって一般消費者向けの商品、あるいはサービスとして定着してきたことに大きな関心が持たれているわけである。

 Kindleの爆発的な普及によって、電子書籍はアーリーアダプター(初期採用者)からアーリーマジョリティ(初期追随者/初期多数採用者)のキャズム越えを果たしつつと感じている人は多いに違いない。一部の物好きユーザーだけのものではなく、日常的なものとして市民権を得ていることが「驚異」なのである。

 アメリカの出版業界にいれば、昔から電子書籍端末を扱ったり、PC上でPDFとして書籍を読むことは日常であったかもしれないが、それは出版業界内部だけのことではないか。一般の読者にとっては、電子書籍端末で書籍を読むという行為は日常の一部ではあり得えなったはずである。それにも関わらず、2009年のクリスマスシーズンあたりを境目に電子書籍は生活の一部として同化しつつあるのである。

 本書の冒頭で日本の電子書籍を一過性のブームではないかと危惧する箇所もあるが、おそらく一過性のモノにはならないだろう。電子書籍端末というものが売られているわけではなく、モバイル端末で書籍を読むという「体験」を販売しているからである。新たな体験が驚きを導くのであれば、ブームが一過性で終わることはない。

 iPhoneでもデバイスの魅力だけで売れているというのは正確ではない。iPhoneを持つことで、世界が変わるのである。日常が変貌していく「体験」にこそ価値があり、iPhoneやiPadがそれを提供する限り、iPhoneやiPadを売れていくに違いない。電子書籍端末も新しい体験を提供し続ける限り、一過性のブームで終わることはないだろう。

 著者は日本人だが、書かれている内容は今のアメリカの出版業界人が考えていることとほぼ一致するのかもしれない。電子書籍については先進国のアメリカ人とっては電子書籍はオプションの一つに過ぎず、ハリウッドが映画をDVDにしたりTVに放映権を販売したり、レンタル料を稼いだりするように、書籍というコンテンツを収入に変える一手段でしかないことがよくわかって興味深い。

 日本の出版業界はいままで再販制度に守られて、売れる書籍コンテンツを複数のオプション(メディア)に積極的に展開して、最大の収益を生み出す努力に甘さがあった。出版文化を守るというお題目に隠れて、儲けを最大化する努力を放棄し、再販制度の中での紙の出版に埋没してしまったといえる。出版がビジネスであるということを理解していれば、電子書籍は出版社にとっても儲け口が増えるわけであり、本来であれば歓迎すべきことである。

 幸か不幸か、日本の出版社は紙の書籍マーケットに特化して飯を食ってこれたので、いまさらコンテンツを多用なメディアに展開して複数の収入原を生み出せといっても難しい。住宅を専門にしていた大工がリフォーム業を手がけるようなものだろうか。他業界では普通のことだが、いままで特化しても生きていけた以上、日本の出版社が大きく舵をきるには時間がかかるに違いない。

 『ルポ電子書籍大国アメリカ』では電子書籍が普及しても、出版業界の構造は大きく変わらないだろうと、まあいえば常識的な回答が提示されている。電子書籍化されて消滅しそうなカテゴリーはマスマーケット・ペーパーバックだけだとか、出版社と著者の絆は固く有名な著者でも中抜きは例外的だとか書かれている。それはそれで納得できる部分もあるし、現状の認識としてしはおそらくそうなのだろう。

 しかし世界的に張り巡らされたネットワークにいつでもアクセスしコンテンツを取得できるようになれば、出版の常識はもっともっと変わっていくのではないかとも思うのである。電子書籍をどらえもんのポケットのごとく、自在に取り出せるようになれば、世界観はもっと変貌するはずだ。そうすれば、アメリカ出版業界の「常識」も覆るのではないか。

 日本の電子書籍マーケットはこれからだが、アメリカのようにアマゾンが一気にマーケットを立ち上げてリードしたわけではない。アメリカとは異なる形で、日本ならでは電子書籍マーケットが立ち上がるに違いない。この数ヶ月の電子書籍を巡る議論のテンポの速さはすざましい。多くの試行錯誤を経て、日本の出版にマッチした電子書籍マーケットが作られていくだろう。

 出版社も関連業界も新規参入組もほぼヨーイドンでこのマーケットに参加できる。日本の読者に支持されたサービス(というかワクワクするような体験か)を提供できれば、無名の会社でもマーケットをリードできるかもしれない。アマゾンやアップルを利用しつつも、日本流の電子書籍の在り方があるはずだ。本書を読みながら、漠然とではあるが日本の電子書籍マーケットは、アメリカとは違った形でダイナミックに展開していくのではないかという予感を強く感じた。読むべし。


◆ルポ 電子書籍大国アメリカ (アスキー新書) (新書)
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◆iPad電子書籍アプリ開発ガイドブック
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4844329065/incunabucojp-22


◆これだけでできるInDesignからEPUBの電子書籍を作る方法
http://www.incunabula.co.jp/book/id_epub/


◆これだけでできるInDesignからPDFの電子書籍を作る方法
http://www.incunabula.co.jp/book/id_pdf/

 
 
ラベル:電子書籍
posted by 上高地 仁 at 00:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | みだれうち読書ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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