運営会社はもともとWebサービスの運営やスマートフォントのアプリを開発する会社で出版社ではない。書籍を簡単にスキャンしてPDFにすれば電子書籍になることから、販売窓口をWebに用意すれば需要があると思ったのだろう。Google ブックスが大きな話題になったこともヒントになったに違いない。
ただこのサイトを閉鎖せざるを得なくなった問題は、絶版本をスキャンして電子書籍にするというアイデアにあったのではない。著作者が「頼んでみようかな」と思うようなオファーがほとんどないと言うことである。
仮に「絶版本」を1000円で販売したとしよう。著者の取り分はその半分強である。支払い印税は10000円に達しないと支払われないので、20冊近く売れないと収入にはならない。書店で売れずに絶版になった本を、WebでしかもPDFを月に20冊売るのは至難の技ではないか。
絶版本には絶版になった理由がある
絶版本は売れなくなったから、絶版になったのである。買う人がいなければ、WebにPDFを用意したからといって売れる可能性はほとんどない。
もちろん中には書店では売れなくても、ネットで販売するのであれば、十分な数量を販売できる(たとえば月に100冊くらい)絶版本もあるだろう。しかしそういう本はユーザーの立場で言えば、古本屋に行くか、アマゾンのマーケットプレイスで探せばよい。手頃な価格でちゃんとした本が手に入る。また、専門書だと同工異曲の書籍がたくさんあるので、絶版になった本をあえて買う必要はない。
このサービスのポイントは、絶版本をPDFにすることではなく、そのPDFをちゃんと販売する仕組みを作ることにあった。絶版本を売れる仕組みこそが必要なのである。もしこのサイトのサービスを実際に使い、絶版本を販売して毎月定期収入を上げてる人がいれば、その人の声を載せるだけで説得力はまったく違ってくる。絶版本を持った著者が、委託したくなる可能性は高くなる。
結局、委託本が集まらなくてサービスは開店前に終了したという。おそらくそれは正解だった。思いついたアイデアを試して見ることは大事だし、やってみなければ見えないこともある。もし駄目だったら、傷が深くならないうちに撤退するのは恥ずかしいことではない。むしろ、止めることの方が勇気がいる。
ただし成功事例を集める前に止めたのは、他に理由があるのだろう。もし「絶版堂」が繁盛して、スキャンしたPDFがバンバン売れるようになったら、販売元の出版社はレイアウトの使用料を請求するようになるに違いない。テキストの著作権は著者にあっても、レイアウトやイラスト、図版の使用権は出版社にある。つまり、儲かっても泥沼の道が待っている可能性が高い。
著者が絶版本をもう一度出版したかったら、アマゾンのDTP(デジタル・テキスト・プラットホーム)を使えばよい。その前にテキストを整理しておく必要はある。テキストの最終稿は普通著者の手元にはなく印刷会社にある。だから加筆訂正本としてアマゾンから発行すればいいのだ。
アマゾン以外でも同様のサービスは広がるだろうし、ISBNコードを格安で提供してくれるサービスも登場するだろう。文字校正も含めてテキストの編集を請け負うフリーの編集者も探せばいるはずである。フリーの編集者にはレベニューシェアで、つまり販売数のコミッションを支払えばリスクはほんんどない。
◆絶版堂 - 絶版書籍のデジタルデータ販売
http://zeppan.org/
◆絶版本をデジタル化することをうたった『絶版堂』、開店できずオープン前にサービス終了[Togetter]
http://togetter.com/li/45962
◆これだけでできるInDesignからEPUBの電子書籍を作る方法
http://www.incunabula.co.jp/book/id_epub/
◆これだけでできるInDesignからPDFの電子書籍を作る方法
http://www.incunabula.co.jp/book/id_pdf/
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