書籍の一部をEPUBやPDFで無償配布するメリットは、やはりモバイルデバイスで手軽に立ち読みテキストを閲覧できることだろう。アマゾンの「なか見!検索」はプラグドオンライン環境で閲覧することになるが、EPUBやPDFで無償配布すれば、手すきのときにどこでも配布されたファイルを閲覧できる。ファイルだけダウンロードしてiBooksにコピーしておけばよいからだ。
といっても、EPUB版無償配布は出版社としては、なかなか踏み切れなかったのではないだろうか。EPUBだとテキストが丸見えになってしまう。つまり書籍のテキストがそのまま取得可能になる。DRMなしでもテキスト配布に戸惑いがあっても不思議ではない。
とうわけで早速ダウンロードしてみた。EPUBファイルはスタイルシートは別ファイルになっておらず、XHTMLファイル内に記述されている。フォントサイズはキャプションが「0.7 em」、見出しが「1.5 em」で指定されているが本文テキストのフォントサイズは指定されていない。
EPUBではフォントサイズを指定しないときは、12ポイントがデフォルトになる。そのためiPhoneのiBooksではフォントの表示サイズを最小にしても、1行が13文字程度になってしまう。もしEPUBをiPhoneでの表示させることを考えるのであれば、本文は「0.8〜0.9 em」程度にしてしておく方がいいように思う。
本文テキストのサイズが「0.8〜0.9 em」程度でも、iPadではまっくた問題がない。iBooksの表示サイズは10段階あるので、表示サイズを少し大きくすればいいだけである。無償配布版はiPadよりiPhoneで読まれるケースも決して少なくない。iPhoneに最適化するほうが正解だろう。
おそらくiPhoneのiBooksでの表示は検証していないのではないか。iPhoneで表示すると、表紙画像の前後が空白ページになってしまうからだ。空白ページが発生するのは、画像サイズがiPhone用に最適化されていないからだろう。もしiPhoneで表示したとき、最初のページが白紙になることがわかれば、なんらかの手を打ったに違いない。iPadのiBooksではおそらく問題なく表示されるのだろう(まだiPadにはコピーしていないので未確認。以前別のEPUBファイルではiPhoneで空白ページが発生してもiPodでは発生しなかった)。
PDF版はさすがにiPhoneで見るのは厳しい。本のサイズは
128×188 mm
なので、iPadでは問題なく表示できるサイズである。レイアウトを確認したい場合は、iPadでPDFを開くのが一番いいのではないか。
惜しむらくはPC上のAcrobatで開いたときの配慮が全くされていないということだろう。電子書籍をPDFで配布するとき閲覧形式は
iPhoneサイズ
iPadサイズ
PCサイズ
の3つを考慮するべきである。PDFではiPhoneとiPadは両方を両立させるのは難しいが、iPadで閲覧するためのPDFであっても、Acrobatで表示させるときにはAcrobat用の設定は必要ではないか。
PCで表示するときは、しおり(ブックマーク─目次)を表示させ、書籍の場合は見開き表示させたほうがよい。PCの場合はしおりを表示させてウィンドウが横に広がっても、それほど差し障りがない。しおりの表示は文書のプロパティで簡単にできるので、たとえiPad用のPDFであってもプロパティの[開き方]で適切な設定は必要ではないか。とくにページものの場合は
見開きページ(表紙)
を選択しておかないと表紙ページが1ページで表示されなくなる。Acrobatで見開き表示にすると、表紙ページと次の目次ページが見開きで表示されてしまう。そのため書籍のレイアウトを再現して見開き表示にすることができない。
↓
もともとPC上のAcrobatで電子書籍を閲覧するケースは、いままではあまりなかった。しかし電子書籍がモバイル用にPDFで配信されるようになると、モバイル用のPDFをPC上のAcrobatで開くケースは増えてくるだろう。そうなると、iBooksやGoodReaderで閲覧するだけでなく、Acrobatでの表示も配慮するべきだと思うのである。
いまのAcrobatはウィンドウ表示で気の利いたページ送りはできない。ただしフルスクリーンにするとページ送りの効果を指定できる。Acrobatのウィンドウ表示でページ効果が使えるようになれば、AcrobatでのPDFの電子書籍を見ることも増えるかも知れない。
PC上で見開きページを正しく表示したい場合は、AcrobatではなくDigital Editionsで開こう。見開き表示すると、Acrobatのプロパティで指定していなくても表紙だけを1ページで表示してそれ以降のページを見開きで表示可能だ。Digital Editionsでうまく開いても、Acrobat用の設定が不要というわけではない。
ただしこういった細かい問題は、あまり気にすることはない。この程度のことはすぐに対応可能だろうし、電子書籍版の一部を無償配布することが当たり前になれば、表示の指定はもっと洗練されていくことは確実だからである。
コンテンツの一部を無償配布して、それが実際の「ウリ」にどうのように繋がっていくのかはなかなか興味深い。インプレスジャパンが今後も同様の展開を押し進めれば、コンテンツの無償配布は書籍の販売をフォローするということ証差となるに違いない。
EPUBもPDFも最後のページには書籍の購入先のリンクが並んでいる。出版社が書籍を作成するだけでなく、プロモーションに重点をおかなければならないテストケースが「iPhone×iPadクリエイティブ仕事術 −本当に知りたかった厳選アプリ&クラウド連携テクニック」という本の無償配布なのではないだろうか。
◆iPhone×iPadクリエイティブ仕事術 −本当に知りたかった厳選アプリ&クラウド連携テクニック[アマゾン]
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4844329103/incunabucojp-22
◆インプレスジャパンのiPhone/iPad関連新刊、EPUBで一部無料配布[ケータイWatch]
http://k-tai.impress.co.jp/docs/news/20100817_387573.html
◆EPUBとPDFのデータ配布ページ
http://k-tai.impress.co.jp/docs/news/20100817_387573.html
◆これだけでできるInDesignからEPUBの電子書籍を作る方法
http://www.incunabula.co.jp/book/id_epub/
◆これだけでできるInDesignからPDFの電子書籍を作る方法
http://www.incunabula.co.jp/book/id_pdf/
ラベル:電子書籍 EPUB
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