このところ、ほとんど出力のセミナーばかり開催していた。セミナーの内容がマンネリ化していたことは、自分自身でも感じていた。新しいテーマに取り組みたい思っていたし、また取り組むべきだと思っていた。しかし具体的なテーマが浮かんでこなかったということが、出力セミナーばかりしていた本当の理由であった。
InDesignについてはCS3ベースに出力の本をまとめる予定にしていた。Illustratorもトラブル事例を中心にまとめたので、InDesignでも同じように整理したいと思っていたのである。Illustratorは印刷事故があっても、被害が軽微に収まることもあるが、ページ物のInDesignではトラブルは許されない。トラブルに軽重はないにしても、敢えていえば印刷トラブルは、IllustratorユーザーよりもInDesignユーザーの方が重いのではないだろうか。
その企画とは別に、iPhoneで電子書籍についていろいろと試していく中で、EPUBの存在を知った。そして同時にEPUBがInDesignから書き出せるということも知った。ところが、InDesignからEPUBを書き出しても、まったく思い通りにならない。
なんじゃこりゃ
という感じである。CS4でフォントを埋め込んで書き出したとき、やっとDigital Editionsで開いたが、レイアウトは完全に無視された。そのときは、EPUBがHTMLであることとか全く知らなかったのである。Digital Editionsでも開くか開かないかわからないEPUBファイルは、iPhoneのStanzaでも当然開かない。ここでInDesignでEPUBを書き出すことをテーマに据えることにしたのである。
頭の中にあったInDesignの出力本の構想は脇に置かれて、InDesignのEPUB書き出しが最優先課題となった。EPUB書き出しのノウハウの方が注目度が高いのではないかと感じたからである。ポイントは
InDesignのEPUBを既存のビューワーで確実に開く方法
レイアウトを想定通りに作成するノウハウ
CS3からでも使い物になるEPUBでも作成する方法
であった。
当時、EPUBを作成する方法はInDesignから作成する方法以外に、Sigilで直接作るという方法があった。というより、その2つしかなかった。InDesignで作成する場合、Digital Editionsで閲覧することを前提としたWebページが多かった。しかしDigital Editionsでの閲覧にはほとんど意味がない。InDesignからEPUBを書き出してDigital Editionsで開いたとしても、Digital Editionsで開くためにEPUBを作ってみたいと思う人はほとんどいないと思われるからである。
もともと電子書籍は、Kindleから始まった。携帯端末を持っていればどこでも書籍が読めることに意味があったのである。PCの前でしか開かないDigital Editionsで読めたとしても誰も興味を示さないし、ビジネスにもならない。もしDigital EditionsでEPUBを読むことに多くの人が関心を示すのであれば、ボイジャーは苦労しなかったはずではないか。
もう一つのSigilを使ってEPUBを作成する方法は、少し面倒だろう。もちろんXHTMLとCSSの知識があれば、それほどハードルが高いわけではない。本文テキストにタグを付けていけばいいだけで、見出しの指定はSigilで可能である。したがって頭の中で仕上がりを想定できれば、すべてSigilですればよい。その場合のコストは人件費以外はかからない。
ただ、テキスト主体の電子書籍といっても、電子書籍だけを作成することはならない。当分は電子書籍と紙の書籍の両方が必要になるだろう。そうすると、紙の書籍と電子書籍を別々に作成するより、オリジンは同じで、書き出し方法を変えるだけで紙の書籍と電子書籍の両方を書き出す方が便利に決まっているではないか。そうなると、InDesignのEPUB書き出しこそが最右翼ではないか。
とはいえ、問題があった。InDesignから書き出したEPUBはDigital Editions以外では開かないことがあるということだ。開いても文字化けする。文字化けしなくてもフォントは思い通りにならず、行送りもインデントも無様なまま。使い物にならないではないか。InDesignで指定した行送りもインデントも書き出したEPUBには反映されないのである。欲しいのは
iPhoneやiPadで使い物になるEPUB
なのである。
InDesignで書き出したEPUBをSigilで開くことを取り上げたページが、思ったより少ない。Sigilで開くと、EPUB内の埋め込みフォントが失われてしまうからであろう。CS4のEPUBはフォントを埋め込まないとテキストを表示しないので、Sigilで開く意味が見いだせないからかもしれない。
欲しいものを手に入れるには、Digital Editionsで開くという選択肢を捨てればよい。いまのところ、MacintoshやPCでしか使えないDigital Editionsで開く価値はほとんどない。将来的に、iPhoneやiPad上のアプリとしてDigital Editionsか登場すれば話は別。フォントの埋め込みを無視すれば、Sigilではターミナルもコマンドラインも不要である。
もしSigilで編集してiPhoneやiPadで開くEPUBが作成できれば、InDesignで紙の書籍としてレイアウトしたドキュメントは、そのまま同時にEPUB書き出しができることになる。そしてSigilで編集してiPhoneやiPadで使い物になるEPUBに変換するノウハウこそが求められているものではないのか。
◆これだけでできるInDesignからEPUBの電子書籍を作る方法
http://www.incunabula.co.jp/book/id_epub/
◆これだけでできるInDesignからPDFの電子書籍を作る方法
http://www.incunabula.co.jp/book/id_pdf/
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