「iPad登場で「MAGASTORE」に異変─電通が考える電子書籍のジレンマ」というITmediaの記事を読んだとき、最大の驚きはアプリ内課金アイテムの制限事項だろう。MAGASTOREのようにAPP内独自のフォーマットでコンテンツを配信する「書店型」アプリには
「In App Purchase(アプリ内課金)のアイテムが最大1000個」という制限
があるというのだ。
この根拠のなさそうな「最大1000個」というのは、iPhoneやiPadでデファクト・スタンダードになる巨大な「書店型」アプリの出現を防ぐためだろうか。アプリ内課金で儲けるアプリのシェアが大きくなると、Appleにとってアプリをコントロールしにくくなる。アプリ内課金で巨大化したアプリを独走させたくないのだろう。広くユーザーの支持を集めた「書店型」アプリは、Appleが独断で削除するのは難しくなる。アイテム数を制限しておけば、Appleに対する発言力は無視できる。
さらにAppleは
タイトル型の電子書籍アプリをAppleがいやがっている
というではないか。電通の電子書籍へのアプローチは「書店型」と「タイトル型」しかなく、いずれも大きなビジネスになりそうもない。別の道を模索するしかなさそうである。
電通はMAGASTOREを多くの雑誌を糾合して、巨大な書店型アプリとして認知させたいのだろう。書店が巨大化して認知度が高まれば、MAGASTOREでの配信コンテンツを増やしやすくなる。つまり雑誌社にコンテンツ提供の営業がし易くなる。
また、配信方法も、本音ではコンテンツはダウンロードではなくストリーミングさせたいと思っているに違いない。ストリーミングの方が広告ページの閲覧数をつかみやすい。ダウンロードしてしまえば、広告ページからWebページへのクリックは調べることができても、広告ページのビューは把握できない(と思うがどうだろう)。
Appleはなぜ、単体の電子書籍アプリをいやがっているのだろうか。電子書籍はアプリというより単なるコンテンツであり、アプリとして配信するべきものではないからだろうか。コンテンツはReaderアプリで開いて閲覧すればよく、アプリとして配信するものではないと考えているからかもしれない。電子書籍の配信も楽曲と同じようにApp Storeですべて牛耳りたいからだろうか。
電通ですら、iPhone、iPadという新しいプラットフォームに魅力を感じつつも、Appleが築いたiPhone OSという壁にとっかかりを見つけることが難しく、大きなビジネスを構築できそうもない。アプリ開発者がiPhone OS内で突出することを、Appleは警戒しているような感じである。
iPhone OSはWindowsに代わるポストOSとして着実に地歩を築きつつある。おそらくAndroidもKindleもiPhone OSには太刀打ちできそうもない。iPhone OSをポストOSのプラットフォームとしてスタンダードにさせるためには、他企業(の利益のための)の横やりを極力排除したいに違いない。
記事の最後に担当者の弁として
App Storeとは異なるレイヤーでアプリのコミュニティーを形成する必要がある
と書かれている。が、それは最初からわかっていたことだろう。ただ、もしApp Storeで単独のビジネスが成立すれば、電通にしても大きな媒体にすることができて大きな利益が見込める。失敗する可能性が高くてもトライする価値はある。雑誌コンテンツでApp Store事業を模索した結果がこの記事なのではないか。
電子書籍をダウンロード型の売りきりにするのであれば、「書店型」も「タイトル型」も不要で、EPUBやPDFにすればよい。専用のReaderで読んでもらえばよい。コンテンツのダウンロードでは、EPUBやPDFも両方用意しておけば、購入者は使いやすいReaderでコンテンツをストックできる。PDFの場合は、iPhone用とiPad用の両方を用意しておけば(当面は)それでよい。
電通にとって雑誌コンテンツのフルダウンロード売り切りは、できればしたくないのだろうが、その流れを止めるのは難しそうである。iPhone OSをコンテンツを配信するメディアの1つとして位置づけ、別の部分で利益を模索するしかないのかもしれない。
◆iPad登場で「MAGASTORE」に異変─電通が考える電子書籍のジレンマ[ITmedia]
http://www.itmedia.co.jp/promobile/articles/1006/04/news052.html
ラベル:電子書籍
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