AdobeがAppleと蜜月だった頃は、Adobeは大企業ではなかったが、Aldusと合併し、さらにMacromediaと合併したので、実質的にはDTP、マルチメディアソフトウェア業界の連合体といってよい。冠にワーノックの自宅に裏庭に流れるAdobe Creek(アドビ川)の名前が残っているが、中身は以前のAdobeではない。Flashの躍進にともなって、社内では旧Macromedia系社員が優勢だという噂もあった。
合併や買収を重ねてAdobeの事業はタコの足のように多岐に渡るようになり、利害も交錯するようになった。会社の建前としては、Flashを否定するAppleを非難するしかない。AdobeはAppleにかつての「腐れ縁」のよしみでiPhone OSへのFlashの搭載を求めたが、AppleはiPhoneでの儲けの分け前を、かつての舎弟ともいえるAdobeに供与することを拒否した。
iPhoneやiPadのビジネスは、いままでのAdobeとは直接関係のないビジネスであり、それらの儲けがあまりに大きくすぎる以上、たとえ「腐れ縁」であったとしてもAdobeにiPhoneやiPadで便宜を図る必要はないからだろう。また、Adobeに便宜を図ったとしても、Appleにとっては見返りはない。Appleは「Gianduia」というFlashに変わる技術を開発しているようで、iPhoneやiPadへのFlashの搭載はさらに遠のいた。
AdobeはAppleから自社技術を搭載をあきらめたとしても、iPhoneやiPadの新しく急激に成長しつつあるマーケットをあきらめることはできない。斜に構えた「We Love Apple」というキャンペーンを張ると同時に、別のタコの足は自社技術を使わない方法でiPhoneやiPadマーケットへの参入を模索した。つまり、InDesignチームはFlash抜きの対応を選択したのである。
「Digital Publishing Platform」はもともとInDesignドキュメントをAIRで電子書籍コンテンツに変換するために作成したものだったに違いない。ところが、AppleがFlashを拒否したので、最大のマーケットであるiPhoneやiPad用にはObjective-Cを利用するように書き換えた。現実的なオトナの対応を図ったわけである。
InDesignユーザーにとっては、この対応は歓迎すべきである。InDesignで作成したドキュメントをマルチプラットフォームで展開するためには、iPhoneやiPadへの展開は欠かすことはできないからだ。高品質なレイアウトを果たすには、InDesignのようなレイアウトソフトは不可欠である。
InDesign CS5へのバージョンアップは、この「Digital Publishing Platform」こそが最大のウリになるかもしれない。バージョンアップだけでなく、電子書籍マーケットに参入したいプレーヤーにとっても、InDesign CS5の導入は不可欠になるのではないか。
InDesignにとっても、「Digital Publishing Platform」は試金石になりそうである。単なる組版ソフトから本当の意味での
ドキュメントマルチメディアソフト
に変貌できるかどうかが問われることになる。InDesignのメタモルフォーゼはこれからが正念場なのではないだろうか。
◆Adobe、iPad向け電子コンテンツ作成ツール「Digital Publishing Platform」を発表[ITmedia]
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1006/02/news022.html
◆Apple、Flash代替技術「Gianduia」を開発中[iPhone 3G Wiki blog]
http://blog.sohaya.com/2010/05/09/apple-developing-flash-alternative-named-gianduia/
◆Adobe Creative Suite 5 Design Premium アップグレード版A Macintosh版[アマゾン]
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B003F782LY/incunabucojp-22
◆Adobe Creative Suite 5 Design Premium アップグレード版A Windows版[アマゾン]
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B003F782MS/incunabucojp-22
◆Adobe Store - Japan
http://tinyurl.com/2efx7ph
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