2010年05月17日

Adobe、ジョン・ワーノック二度目の「浪花節」の勝算は

 AppleがFlash排除の姿勢を強めたことで、AdobeはAppleの独占的な手法に疑問を呈し「We Love Apple」というキャンペーンを展開した。Apple向けのメッセージではなく、実はAdobeのユーザー向けのメッセージである。

  コンピュータを巡る戦いは、プラットフォームを巡る戦いであった。最初はOSデファクト・スタンダードの戦いがあり、Microsoftが勝利した。OSで一人勝ちしたMicrosoftはビジネスアプリケーションを事実上独占的に販売して大きな利益を上げた。

 次のプラットフォームは、Webブラウザであった。OS環境に依存しないプラットフォームとしてNetscapeとInternet Explorerの間で熾烈な駆け引きがあったが、いまだに決着を見ていない。現在はNetscapeの後釜のFirefoxが優勢そうだ。ただし、Webブラウザを無料配布しての収益は、それほど多くない。Googleからの広告収入程度であり、Firefoxでもせいぜい日本円にして1億円程度しかない。

 OS環境に依存しないプラットフォームはWebブラウザの他にもある。JavaScriptはWebブラウザ上で動作するので、Webブラウザに含めるとすると、

PDF
Flash

がある。FlashはWebブラウザ上で動作するが、ブラウザは必須ではない。いずれもAdobeとMacromediaが開発したフォーマットである。Adobeはこれに加えて、Adobe AIRの普及にも力を入れている。

 AdobeはPDF(Acrobat)やFlashをオープンフォーマットにしてフリーでダウンロードできるようにするかわりに、それらを作成・編集できるソフトを販売して飯を食っている。つまり、バックエンドにAdobeのコンテンツ作成ソフトが用意されている。AppleがiTunesをタダで配って、iPodを販売しているように、オープンフォーマットをフリーで提供して、アプリケーション製品を高く売るのだ。高額な化粧品のサンプルをタダもしくは廉価で販売して見込客を集めるようにである。

 PDFにしてもFlashにしても、OSに依存せずに使えるというのがミソである。つまり、一度コンテンツを作成すると、OS環境に依存せずにコンテンツを作成できることで、ユーザーに訴求してきた。

 ところがAppleはiPhoneにFlashの搭載を拒否してきた。Adobeにとっては一大事である。主要なデバイスをAdobeのプラットフォームにしなければ、PDFやFlashのメリットは小さくなってしまうからだ。

 「We Love Apple」というキャンペーンと同時に、共同創業者で会長のジョン・ワーノック氏とチャールズ・ゲシキ氏の二人が公開書簡を発表した。Appleの排他的な姿勢を批判する内容である。Appleはオープンではなく、インターネットを支配しようとしているという揶揄する。

 むかし、AdobeはAppleに煮え湯を飲まされたことがある。1989年にAppleはMicrosoftと手を組んで、TrueTypeを発表した。AdobeにはTrueTypeは大きな痛手だった。当時のAdobeはPostScriptフォントのライセンスで飯を食っていて、MacintoshからもWindowsからもPostScriptフォントが排除されてしまうと、利益を確保できなくなるからだ。

 そのときジョン・ワーノックは、Appleの最高技術責任者だったジャン=ルイ・ガゼーの仕打ちを「悪魔の取り引き」として批判した。AdobeはAppleがよもやMicrosoftと手を組むとは予想できなかったのだろう。ガゼーは単に、AdobeにPostScriptフォント1書体に付き300ドルを払うくらいなら、自社でフォントを開発した方がいいと考えただけだった。AdobeはPostScriptフォントの仕様を公開し、フォントのライセンスで利益を生むことを諦めた(日本のダブルバイトフォントは別)。

 結果的にTrueTypeフォントが生まれ、フォントは気軽に使えるようになった。Adobeの利益は失われたが、PCの販売を広げるには役に立った。Adobeにとって「悪魔の取り引き」であっても、業界全体から見れば、PC導入時のユーザーの負担が少なくなるのでTrueTypeフォントはおおいに歓迎されたのである。

 ジョン・ワーノックが公の場(シーボルト)で泣き言のようなことを言ったのは、そのときだけだろう。そして今回が、おそらく二度目である。シーボルトでは同情を誘ったが、今回はどうなるのか。Adobeは同情票を得ることができるだろうか。

 iPhoneにFlashを搭載しないことが、「コンテンツをいつでもどこからでも閲覧できる世界――を台無しにする」というのは、必ずしもそうではない。iPhoneやiPadのユーザはAdobeのいう「Freedom of choice」のために、Flashを搭載を求めているわけではない。Flash搭載の自由を求めているのは、Adobeであり、Flashコンテンツの作成者たちである。

 ユーザーは「コンテンツをいつでもどこからでも閲覧できる世界」を求めているにしても、それがFlashである必要は必ずしもない。ユーザーが欲しいのは結果であり、特定の技術ではないからだ。

 Appleはハードウェアメーカーなのか、あるいはソフトウェアメーカーなのかと言われればなかなか難しいが、どちらかを選べといえば、

ハードウェアメーカー

ではないか。Appleは魅力的なソフトを搭載しつつ洗練されたデザインのハードウェアを売りたい会社である。そしてソフトは自社開発したいのである。マーケットを握った今、他の会社を顧みる必要はないのである。

 ただそうはいっても、Appleがここまで生き残ってきたのは、Adobeのアプリケーションがあってこそである。AdobeやMacromediaがDTPソフトをMacintosh用に重点的に開発してこなかったら、Appleはどこかで消滅していたはずである。だから、まだ多少時間はかかるにしても、AdobeとAppleの間ですりあわせは続けられるのではないか。AdobeがAppleのためになる提案ができれば、iPhoneへのFlashの搭載は(使用上の制限はあるかも知れないが)可能性はあると思う。

 いずれにしても1つの会社がすべてのプラットフォームを支配することはできない。iPhoneやiPadはいまは好調だが、十年先はわからない。Apple以外の会社が、もっと先進的な、スマートフォンを越えるデバイスを開発するかも知れないのだ。もっとも十年もしないうちに、Adobeがスマートフォンのハードウェアを開発する会社を買収しているという選択肢もあると思うけどね。


◆Adobe、「We Love Apple」キャンペーンでAppleに反撃 創業者の公開書簡も
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100514-00000017-zdn_ep-sci

◆Firefoxなどから得られた2007年度売上高は「約71億円(7500万ドル)」、どのようにして儲けているのか?
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20081123_firefox_mozilla_revenue/

 


ラベル:iPhone,Flash
posted by 上高地 仁 at 12:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース&トピック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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