2010年04月20日

紙の本が消えることはわかっている、問題は「いつ」と「どのようにして」だ

 『G2』という雑誌に書評のブロガーである小飼弾氏のインタビューが掲載されている。出版社からの献本が毎月300冊もあるのはうれしい反面、迷惑な部分もある。貰った本の大半は紹介できないだろうしね。彼は「紙の本は90パーセント消えます」と断言したという。

  しかし紙の本がいずれはほとんどなくなるというのは、誰の目にとっても「自明」のことであり、

それがどうした

というのが本音である。そりゃ、いつかは90%くらいになるだろう。全く驚くようなタイトルではない。

 このインタビューの趣旨は、紙の本がなくなって電子書籍が普及すれば、読書率はアップするのではないかということであろう。電子書籍は本棚という物理的制限を解放し、本の価格を劇的に押し下げる。価格が手ごろになって、書店に出向いたりネットで注文する必要がなくなれば、

もっと本は読まれるようになる

という説はもっともらしいが、全く根拠はないのではないか。本を読む人はますます読むようになっているというが、Webサイトのページを読むのと書籍で読むのとではまったく意図が異なる。

 書籍を買うといっても、読むだけのためとは限らない。書籍はコレクターもいるし、本棚に並べることに快感を感じる人もいる。本棚の制約があるといっても、もう読み返さないという本は、売るなり捨てるなりすればよい。一度読んで読み返さないという本は電子書籍で十分だが、読んでみないと精読したい本かどうかはわからない。出版して売れる本の数は確実に減っていくには違いないが、キンドルやiPadの普及で急激に低下するとは限らない

 もちろんそうはいっても、本を買うというライフスタイルが身に付いた人たちがもっと少なくなれば、音楽CDのようにベストセラーしか売れないということになるだろう。そうなったとき、出版物の販売点数はさらに急降下すると思うが、それが何時なのかは誰にもわからない。しかし、誰もが知りたいのは、「いつ」さらに急降下して、どのメディアにシフトにするのかということだろう。そして「どのような」経緯でそこに至るのか、ということだ。少なくともここ数年ではないような気がする。十年先はわからないけどね。

 また電子書籍になり価格が大きく下がったとしても、購入数が増えるとは限らない。いまは電子書籍が注目されているので、販売数は増えているだろうが、長期的に見れば、既存の書籍からシフトしただけの電子書籍の販売数は伸び悩むことは確かである。

 「製作コストが下がれば、もっとたくさん出版できる」と書かれている。しかし、いまでは出版の制作コストは大きく下がっている。自費出版もそれほど費用はかからない。自費出版の点数は増えているはずだ。しかし自費出版しても(出版社が発行しても)売れないものは売れない。さらに印刷・製本・流通コストをかけずに出版点数を増やせたとしても、出版業界の産業規模が大きくなることはない。出版点数が増えれば売り上げも大きくなるというのは、根拠のない幻想に過ぎない。

 また電子書籍になって安くなれば、販売数が多くなるというのも疑問だ。雑誌社や新聞社の有料サイトで大成功したという話は聞いたことがないから、情報を大多数に有償で提供して、薄利で儲けるというビジネスモデルは成り立ちそうもなさそうだ。漫画や小説のようなものであれば、安ければ売れるかというと、安くなってもその価格に慣れれば、やはり売れなくなっていくに違いない。

 要するに売れるかどうかは「中身」次第であって、出版社や著作者の発行したいとものとは関係ない。売るというのはビジネスであって、重要なのは売れる中身かどうかであり、中身(コンテンツ)に合わせてメディアを抱きあわせていくしかない。「1Q84」を電子書籍にしたら、十倍二十倍売れるのかというとそんなことはないでしょ。いまは印刷した方が出版社も著者も儲かるからね。

 もし電子書籍が売れるとしたら、従来の書籍の形態から逸脱したものになるのではないか。インタビューの最後に「本が電子化していくなかでも、試行錯誤して形にしていけばよい」と書かれているが、試行錯誤した結果に生まれるものは、きっと書籍とは呼べないものになるような気がする。


◆蔵書2万5000冊の男が断言 小飼弾「紙の本は90パーセント消えます」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100419-00000302-gtwo-ind

 


posted by 上高地 仁 at 10:34 | Comment(1) | TrackBack(0) | ニュース&トピック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
生まれた時からPCをいじくってる世代、学校の授業をノートPCでノートをとるような世代がどう反応するのでしょうかねぇ?
ペーパーレスチルドレンとでもいいましょうか。
このひとたちが、鍵を握ってそうな…
Posted by 読人しらず at 2010年04月20日 18:46
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