アドビのプレス向けの内覧会で強調されていたことは
メディアの多様化
である。コンテンツを展開するメディアは増えることはあれ、減ることはない。OSやアプリケーションのバージョンが新旧取り混ぜて使われるように、メディアも古いメディアを温存したまま、新しいメディアが登場する。最近は、キンドルやiPadでの電子書籍が話題になった。
Photoshop、Illustrator、InDesignのデザインツールのアプリケーションは、対抗馬が不在のまま、ほぼ独占状態になっている。ライバルがいなければユーザーのニーズを吸い上げて激しく競争する必要はない。肝をつぶすような新機能にはお目にかかりそうもないのだ。Illustrator CS4にあった「マルチプルアートボード」もFreeHandの機能を移植したという程度の発想らしい。
そうはいっても下位バージョンとの互換性を喪失するようなバージョンにするわけにもいかず、既存バージョンのユーザーが使いやすい機能を追加する「新機能」が主になることは仕方がない。紙媒体用の新機能には限界があり、新しい機能についてはそれ以外の部分を拡張していくことになる。
メディアが多様化するなかで、アドビのデザイン製品ユーザーもさまざまなメディアに対応しなければならなくなっていく(多分)。アプリケーションの進化の方向は、IllustratorやInDesignが多くのメディアに対応できるように機能が強化されていくことになる。Creative Suiteのデザイン版には
Design Standard版
Design Premium版
がある。プレミアム版はWeb用のアプリケーションが同梱されているのが異なるところだ。Adobeによると、Design PremiumとDesign Standardユーザーを比較すると、世界的には
Design Premiumのシェアは45%
らしいが、日本では
Design Premiumは15%弱
らしい。アメリカでは過半数のユーザーはDesign Standardではなく、Design Premiumを選択するという。つまり、デザイン用のアプリケーションもWeb用のアプリケーションの両方を使っているのだ。世界的には、Webアプリも同梱したDesign Premiumは成功したが、日本では芳しくないというのが実情なのである。
今後日本でDesign Standard版のユーザーがPremium版にシフトしていく可能性は高いだろうか。印刷会社がWebサイトの構築も手がけたとしても、一人のオペレータに印刷用データとWeb用のデータの両方をまかせることは少ない。事業の規模が少し大きくなれば、分業化するのが普通だろう。すべてを覚えなければならないのは、フリーのデザイナーくらいではないか。
また、両方のアプリケーションを手足のように使いこなせるユーザーはそれほど多くない。Illustratorが使えても、InDesignはからっきしというユーザーが大半なのに、そのうえ、FlashもFireworksもDreamweaverも身につけるのは簡単ではない。
今回の多様化するメディアに対応するためにAdobeが用意したソフトが
Flash Catalyst CS5
である。簡単に言うと、コードを知らなくても、Flashを作成できるソフトだそうだ。ただしFlash化できるのは、IllustratorとPhotoshopから(Fireworksも)で、InDesignは同様の機能を内在しているので対象外。つまり、Flash Catalyst CS5の機能をマスターすれば、IllustratorのベクターデータやPhotoshopの画像をインタラクティブなFlashデータとして書き出すことができるのである。ちなみにFlash Catalyst CS5はDesign Premiumには同梱されているが、Design Standard版には含まれていない。
きっとサンノゼは、こう思っているに違いない。Design Standard版のシェア低いということは、Standard版ユーザーをPremium版ユーザーにシフトさせれば、日本での売り上げはアップするに違いないと(アフリカで靴を売るような話か?)。はたしてその思惑は見込通りなのか、そうではないのか。バージョンアップするとしたら、あたなはどちらを選択する?
ちなみにCS5からは64 bit対応となり、インテルMacオンリーとなった。Mac OS X 10.5.7以降。PowerPCは過去に置き去りになった。
ラベル:Creative Suite 5