2009年11月12日

PDF入稿の歩みは遅いか─吉田印刷所のアンケートを見る

 日本でAcrobatが登場して早13年。印刷用としてPDFが実用的になったAcrobat 4.0。フォントが埋め込めるようになったAcrobat 4.0は1999年のリリースなので、それからだと10年が過ぎた。10年で印刷用フォーマットとして、PDFは名実ともにスタンダードなったのかというと、いささか心もとない。

 吉田印刷所さんの笹川純一さんから

『「印刷データとしてのPDF利用状況」ネットアンケート結果を公開』

というニュースリリースをいただいた。吉田印刷所のWebサイトの閲覧者を対象にアンケートを行った結果の案内である。

  結果は次のようになっている。

■PDF入稿の割合はどのくらいですか? …投票数:250票

・多い   (70〜100%) … 32.4%
・少ない  (〜30%)  … 30.0%
・なし          … 24.8%
・半分くらい(40〜60%) … 12.8%


 「多い」と回答してPDF入稿を常用しているユーザーが約3割である。Acrobat 4.0のリリースから10年がたって、PDF出力対応のRIPの普及は大きく広がった。にも関わらず、思ったほど多くない。

 もともと吉田印刷所はネット通販の印刷会社の中では「老舗」であり、PDF入稿への対応も早かった。Webサイトやブログの閲覧者はPDF入稿に積極的な層が多いはずだ。それでも、3割弱しか「多い」と回答していないとすれば、他のネット通販ではPDF入稿の比率はこれより少ないと考える方が自然だろう。世間の平均では、PDF入稿の比率がこの数値を上回ることはなさそうだ。

 PDF入稿「なし」が「24.8%」もあるというのは、「なし」を選択したユーザーにとっては、PDF入稿にシフトする必要性がまったく見えないからだろう。残念ながら、このアンケート結果では、「なし」を選択したユーザーのOS環境や主要アプリケーションのバージョンなどはわからない。ただし、憶測するに、Illustratorは8.0あたりが多いのではないか。Illustrator 8.0から10.0ではPDF入稿するより、今まで通りEPSで保存して入稿するが、ややこしくなくて良い。昔は重たいファイルは嫌われたが、今ではどれほど重くても、転送に時間がかかるくらいしかデメリットはないからだ。

 簡単な印刷物を作成するのであれば、DTPアプリの新しいバージョンを使う必要はない。新しいバージョンは機能が豊富な分だけ、使いこなしのハードルは高い。さらにマシンやOSも更新しなければならずコストに見合うだけのパフォーマンスが得られるかどうかは、ユーザーの使い方によって異なるだろう。マシンやOSが古くても、古いバージョンの方がサクサクと動作するからである。

 パソコンで使うアプリケーションにも「刷り込み」がある。最初に覚えたアプリケーションやバージョン以外を使わないユーザーも少なくない。オフセット印刷用のドキュメントをExcelやPowerPointを使う「猛者」も少なくない。印刷用ドキュメント作成の頻度が高ければ、印刷用の専用アプリケーションや新バージョンの新機能をこなして覚えていくことはできるが、頻度が少なければ、別のアプリケーションや新しいバージョンをマスターするのは割に合わない。

 イノベーター理論を援用して解釈すれば、PDF入稿はそろそろ成長期を抜け出しつつあるかもしれない。このアンケートを見ると「多い」と「半分くらい」で約50%近くになっており、前期追随者はほぼPDF入稿を(すべてではないにしても)常用しているからだ。

 おそらく「なし」と回答したようなユーザーは、古いマシン環境をマシンが壊れるまで使い続けるか、新しい環境に移行しても、いままで通りの方法で入稿することになるだろう。Mac OS 9が搭載されたG4クラスのマシンはサポート以前の問題として、ハードウェアがクラッシュして使えなくなっていく。徐々にであっても新しい環境にシフトしていくしかないにしても、入稿するユーザー側にはPDFで入稿するメリットは見えてこないかもしれない。

 さて、このニュースリリースの中で

これをもってPDF入稿が進んできていると考えるのは難しい

と書かれているが、本当に知りたいのは、「多い」と回答した「32.4%」が発注している頻度である。「多い」ユーザーが月に平均5回の印刷物を発注し、「なし」ユーザーが月に平均1回だったら、PDF入稿の点数という意味では、普及率はかなり高いと考えられるからである(その逆だと、普及率は低くなる)。そのあたりまで知りたいというのは欲張りだろう。

 しかし、PDF入稿が成長期を過ぎているのは確かではないだろうか。成熟期に入ったとき、印刷会社の入稿方法もまた変わっていくことになるだろう。ネットの印刷通販も競争が激しくなり成熟期を迎えている。価格だけで勝負する時代は終わりを告げ、廉価な価格にプラスアルファしたもので差別化していくことが必要になるのではないか。「プラスアルファ」が何かというのは、また別の話ですけどね。

◆株式会社吉田印刷所
http://www.ddc.co.jp/

◆[8012][アンケート]PDF入稿の割合はどのくらい?[吉田印刷所DTPサポート情報blog]
http://blog.ddc.co.jp/mt/dtp/archives/20090910/130000.html

 


posted by 上高地 仁 at 17:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース&トピック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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