普通に市販雑誌をスキャンして画像データを販売すれば、もちろん著作権法違反だろう。だから、エニグマではデータ販売の受注を受けた分だけ、当該雑誌を購入していて、その購入した雑誌をスキャンしてデータという渡すというやり方である。
スキャンを代行業
ということらしい。スキャンの代行を行うだけなので、出版社との契約は不要だし、著作権法違反にもならない。私的利用範囲の複製を依頼されているだけという言い分である。
もちろん実際には注文してから、雑誌を購入しスキャンしているとは思えない。憶測するに、売れ筋の雑誌はスキャンデータを用意してダウンロード販売しているのだろう。スキャンが受注後の代行であると考えるのは無理がありそうだ。
もし訴訟になったとしたら、エニグマじゃなかったエニグモは勝てないのではないか。「スキャンを代行業」であることの正当性を裁判官に理解して貰うのは簡単ではなさそうな気がする。「スキャンを代行業」は言い訳にしか聞こえないからだ。
しかしこの問題の本質は、
出版社側の雑誌デジタルコンテンツ販売の取り組みの鈍さを露呈した
ことにある。デジタルコンテンツは普及の段階を通りすぎ、運用・活用の方法論で沸き立っているのに、雑誌の出版社が既存の流通形態にしがみつき、ユーザーの利便性を忘れてしまっていることにある。
「コルシカ」などというサービスが登場する前に、雑誌のデジタルコンテンツを提供する仕組みを構築するべきであったにもかかわらず、そういう社会的使命に目をつぶり、ひたすら旧態依然とした流通方法に拘泥し埋没してきたことにこそもっとも大きな責任があるのではないか。
雑誌の場合、バックナンバーの閲覧のためにデジタルデータをユーザーが保持できるようにすることはいまの時代であれば、当然のことではないか。あるいは週刊誌であれば話題のキーワードで複数の雑誌の一気に検索したいというニーズは確実にある。技術的には全く困難ではない。
多くの雑誌販売数が低迷し、出版の倒産が増えていく背景には、コンテンツのマルチユースを頑なに拒否してきた雑誌社の姿勢にも問題がある。コンテンツから複数のビジネスモデルを生み出す努力のなさが、出版社の凋落を招いているのではないか。
映画産業は金がかかるせいもあるが、劇場ロードショーだけでなく、DVDの販売、レンタル料、テレビ局への放映権、キャラクターのマーチャンダイジングと収益モデルを多角化してきた。雑誌だって掲載されるコンテンツから収益の多角化を図るべきであって、雑誌の販売(と広告料)だけで採算ベースに乗せようとすること自体が、時代遅れなのである。
雑誌のデータ販売が本当にニーズがあるものなのかはまだまだ未知の部分はある。しかしそれを提供する「社会的義務」は出版社にはあるのではないか。「コルシカ」でなくてもよい。デジタルデータは別途費用がかかってもいいし、書店や出版社のネット販売での販促ツールとして利用してもよい。デジタルデータの提供を模索する試みは不可欠ではないだろうか。
おそらく日本雑誌協会が怒っているのは、出版社自らがデジタルデータの販売をしたいためではなく、単に「許可なく」データ化して販売したためということだろう。つまりプライドが傷つけられたという程度の意識ではないか。
デジタルデータの許諾権は俺たちにある
ということだろう。だとしたら、いままでの出版社の取り組みはあまりにお粗末ではないか。そんな偉そうなことをいうだけの結果を残したのか、雑誌のデジタルコンテンツ化という社会的使命を果たしてきたのかと問いたくなる。
そういう意味は、「コルシカ」は出版社にそれを気づかせた意義が大きい(気づいていない出版社の方が多いだろうけどね)。残念ながら、誰もがお尻に火がつかないと走り出せない。両者の話し合いがうまくまとまれば(まとまらないと思うが)、雑誌のデジタルコンテンツが手軽に利用できる日も遠くないかもしれない。もっもと、その場合はテキストの検索はできるようにして欲しい。スキャンされた画像データは願い下げである。
◆「コルシカ」に雑誌協会が抗議 雑誌スキャン・ネット販売は「著作権侵害」[ITmedia]
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0910/09/news050.html
◆日本雑誌協会が雑誌閲覧ネットサービス「コルシカ」にサービス中止を要請
Emi KAMINO[CNET]
http://japan.cnet.com/venture/news/story/0,3800100086,20401440,00.htm
◆「コルシカ」全雑誌データの販売を停止[Yahoo!ニュース]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091014-00000007-zdn_n-sci
◆コルシカ
http://www.corseka.jp/
ラベル:コルシカ