まず最初に述べるべきことは、オブジェクトメニューに用意されていた[トリムマーク(トンボ)]のメニューが削除されたことだ。トンボを追加する場合は、オブジェクトを選択し効果メニューの[トリムマーク]を指定する。ここで指定されたトンボはオブジェクトではなく選択できない。オブジェクトにするには、トリムマークを作成したオブジェクトを選択して、オブジェクトメニューから[アピアランスを分割]するのである。
オブジェクトメニューのトリムマークが削除されて、効果メニューのトリムマークに一本化されたのは、マルチプルアートボードの導入と関わりがある。CS4からは一つのドキュメントに複数のアートボードを作成することが可能になった。Illustratorから複数のドキュメントをPDFとして書き出すのであれば、書き出し時にトリムマークを指定する方がわかりやすい。アートボードサイズを仕上がりサイズとして書き出すのである。
マルチプルアートボードのメリットは、同様のデザインでメディアの異なる印刷物での設定の共有である。たとえば、ポスター、リーフレット、POP、カードなどで同じイラストを使う場合、マルチプルアートボードで一つのドキュメントで配置すると、カラー管理やグラフィックスタイル、スウォッチ、合成フォントなどの設定を一元化できる。スウォッチに登録したカラーを変更する場合も、スウォッチを変更すると、すべてのアートボードのスウォッチが変更できる。CS3まであれば、ファイルの管理が別々になるので、全てのファイルを開いてスウォッチの変更が必要だった。

EPSやPDF書き出しでは、書き出し時にアートボードを選択することができる。EPSではトンボを追加することはできないが、PDFではいままで通りアートボードサイズに対してトンボを追加できるので、必要なアートボードだけを選択して書き出せばよい。また、PDFでは複数のアートボードを選択して書き出しても、1ファイルのPDFとして書き出される。8ページや16ページ程度のものであれば、Illustrator CS4のアートボードエリアでページを作成してPDF書き出しすると、マルチページのPDFを作成することも可能だ。なお、ダウンバージョンすると、複数のファイルに分割して保存する。

CS4ではトリムマークはフィルタメニューではなく、効果メニューに置かれている。実はCS4ではフィルタメニューは用意されていないのだ。アピアランスの分割されたフィルタを使わずに、すべてを効果メニューで指定する。つまり、オブジェクトに命令する状態を保持したまま使うのである。Photoshopで非破壊レイヤーが標準となったように、Illustratorでも効果メニューが基本なのだ。

オブジェクトに対するさまざまな効果が、効果メニューに集約されたことで、アピアランスパレットの使い勝手が飛躍的に向上した。CS3までのアピアランスパレットは、リストをクリックする必要があったが、CS4ではアピアランスパレットからそのままカラーや線幅などを指定できるのである。Photoshopの[色調補正パネル]と同じように、メニューからそれぞれのウィンドウを開かなくても編集可能なのだ。

アピアランスパレットはダイレクトに指定するだけでなく、レイヤーのように表示・非表示の目アイコンも用意された。アピアランスのプレビューをオンとオフできる。
操作上の使い勝手も向上している。便利になったのは、クリッピングマスクの処理だろう。従来はマスクされたオブジェクトでも選択可能だった。しかし、CS4ではマスクされた部分はロック状態になり、選択できないようになった。マスク部分を不用意に選択することがなくなった。
クリッピングマスクだけでなく、通常のオブジェクトも選択したオブジェクトだけをアクティブにすることができる。オブジェクトを選択してコンテキストメニューから[選択パス編集モード]を指定する。選択したオブジェクト以外は選択できなくなる。複雑なアートワークで効率的に利用できそうだ。

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グラデーションはグラデーション調整バーが用意されて、グラデーションの適用が極めて柔軟になっている。グラデーションパレットでグラデーションを作成しなくても、オブジェクト上でのプレビューを確認しながら、グラデーションを編集できるのだ。また、グラデーションに不透明度を簡単に与えることもできるようにもなっている。
塗りブラシの機能も「直感的」になった。従来の塗りブラシは線に属性を与えていたが、CS4では閉じた塗りオブジェクトとして作成されるようになった。重ねていくと、次々と塗りオブジェクトエリアが重なって一つのオブジェクトになる。つまり、自動的にパスファインダーの[合体]処理が行われるのである。塗りブラシを使えば、フリーハンドで線画が簡単に作成できるようになった。
またInDesignには搭載されている[分版プレビュー]が、Illustrator CS4にやっと搭載された。CMYKと特色をリストする。表示・非表示を切り換えることができ、オーバープリントプレビューもここで選択する。

Illustrator CS4のもっとも魅力的な機能は、やはりマルチプルアートボードだろうか。ただし、アピアランスが便利になったとはいえ、メモリをより多く必要としそうなのは、Photoshop CS4と同じだ。たとえマルチプルアートボードを使わなくても、[選択パス編集モード]やグラデーションツールは便利になっている。ちなみに、PDF書き出しでは、セキュリティでAcrobat権限が指定できるようなっている。
ラベル:Illustrator CS4
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パレットなど画面もスッキリすると嬉しいですね。
無用なバージョンアップなど、と言った前言撤回、待ち遠しい思いです。
インデザイン並みのメモリ容量を要求されそうですね。
バグ対策もしっかりお願いしたいところです。