少しばかり富裕だったためにシベリアに追放された流刑農民の息子は、書類を偽造し流刑農民の履歴を隠して軍に入る。そして軍曹という下士官階級でありながら、銃の設計者としての道を進む。そして彼が設計した銃が、コンペを勝ち抜きAK-47としてソ連軍に正式に配備されことになった。その人生を語ったものが『カラシニコフ自伝 世界一有名な銃を創った男』である。革命後の激動するロシアの歴史とともに語られるカラシニコフの人生は生々しい。
世界中で起きている紛争やテロの現場に必ずある突撃銃カラシニコフ。安価でもっとも信頼性の高い銃の名前は、まがまがしく聞こえる。たった二万円程度(最近は30ドル以下という話もあるようだ)で売買されるAK-47が、紛争やテロを引き起こし、悲劇を増幅させる。
AK-47がなかったら世界の悲劇は減ったのか
とつい考えてしまう。
必ずしもそうではないだろう。カラシニコフがAK-47を設計し、ソ連がワルシャワ条約機構の国々に無償でライセンスしなかったとしても、別の銃がカラシニコフの代わりになっただけだろう。世界に圧政や貧困がある限り、人間の心に暴力が芽生える。武器が求められる。設計者のミハイル・カラシニコフに、紛争やテロの責任の一端があるわけではなかった。
責任があるとすれば、AK-47を生産し、紛争地帯に売りさばいて、外貨を稼いでいる国や企業にこそ、責任があるはずだ
ミハイル・カラシニコフを「英雄」扱いする姿勢をいままで疑問視していたが、彼が設計したものが「突撃銃」であったにせよ、優れた製品を世に送り出したことは間違いない。
カラシニコフはゴルバチョフ(エリツィンも)が嫌いらしいが、ペレストロイカがなければ、カラシニコフの名前は、悪魔の代名詞になったかもしれない。そう考えると、こういう本が出版されることの意義は大きい。
スターリン、フルシチョフ、ブレジネフといったソ連の戦後から冷戦期に、ソ連で生きている人たちがどのような考えを持ち、何を感じていたのかを知る上ででもなかなか面白い本だった。
ラベル:カラシニコフ
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